TNFD対応がなぜ難しいか?
LEAPフレームワークに沿った開示の課題とは?
LEAPフレームワーク
自然関連財務情報開示タスクフォース Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD) について情報収集をされたことがある方は、このタスクフォースを特徴づけるLEAPというフレームワークを目にしたことがあるでしょう。 企業が自然と事業の接点を開示するにあたって、この枠組みに沿ったアプローチが求められています。
これを実行するうえでは、開示を行う切り口(=企業のリスク・機会に直結する重要な要素)を適切に設定し、ふさわしいデータ・方法を用いることが不可欠です。 さらに、自社の状況を適切に文脈付け Contextualize することも要請されています。
シンク・ネイチャーの経験 -なぜTNFD対応が難しいのか?
シンク・ネイチャーは、10以上の上場企業のTNFD対応を支援した実績を有しています。 蓄積された経験をもとに、TNFD対応における個社の様々な課題の分析と、それらに対する方向付けを行ってきました。 TNFDに対応するプリペアラーが直面する実際的な課題として、以下のようなものが挙げられます。
自社の事業に、どんな自然との接点があるのかが分からない
このような問いは、自然との接点が直接見えにくいセクターにおける典型的な課題です。
この場合、事業がどのような原料を利用しているか? が一つの切り口となります。 自然に由来する資源(農作物、鉱物資源など)調達拠点が、自然と事業の、必然的な接点となるからです。 原料を用いた製造業の場合には、工場操業を行う拠点における土地改変や、水資源の利用も分析の候補になります。 原料を利用しない、通信業のような場合は、インフラ(ケーブル、アンテナなど)の設置地点が分析の候補です。 不動産業者の場合には、開発が行われる拠点の情報が重要になってきます。 さらに、どのような業態の場合でも、営業所の周辺で植栽などの自然再生活動を行っている場合には、その効果の定量化も、インパクトのある開示のテーマになりえます。
自然との接点がサプライチェーンの末端に存在し、それをたどることができない
原料の調達による影響が高いと判断されたとしても、その具体的な空間的情報が不足しているケースがこれにあたります。
これを解決するのは、原料生産が行われている場所を表す地図データです。 シンク・ネイチャーは200以上の農業コモディティ、10以上の鉱物コモディティの主要な生産拠点の空間情報を網羅しています。 このデータを用いた分析の特徴は、原料生産は、概して地理的に偏った拠点で行われており(例:石油における「産油国」)、全く事前情報がなくてもかなりの絞り込みができることです。 この絞り込みをもとに、原料そのもののリスク評価を高精度で行うことができます。 複数のコモディティを横並びにした分析により優先コモディティを特定したうえで、具体的な調達地点に関する詳細な情報収集を行うことで、開示にかけるリソースを有効に配分することができるようになります。
投融資を通じて大量の事業と接点を持っており、接点を分析しきれない
これは、金融セクターが開示を行う際に直面する、典型的な課題です。 個社の活動を詳細に分析し、その結果を積み上げることで全体像を把握することが理想ではあるものの、実施することは多くの場合現実的とは言えません。
この課題に対応するため、シンク・ネイチャーは国際的な貿易統計と、生物多様性の空間情報を用いた分析フレームワークを開発しました。 特定の国での、特定のセクターの事業が、バリューチェーンの末端で生物多様性に与えるインパクトを推定することができます。 これを用いることで、ポートフォリオレベルでの「国、セクター」という粒度でのスコーピングが可能になります。
既存のツールの分析結果が納得できない
事業拠点の生物多様性評価を、IBATやWWF Risk Filter 等のツールを用いて行ったことがある場合に、直面することが多い課題です。
これらのツールのもととなっている生物多様性の分布情報は、専門家が描いたレンジマップと呼ばれる粗い空間データに基づいています。 レンジマップに由来するデータは、希少種の分布域を過大評価してしまうことで、ハイリスク地域を過剰に生じさせてしまうという問題があります。 これが、納得感の低いリスク評価結果につながります。 これに対して、実測値と環境情報に基づく精緻な分布予測に基づくシンク・ネイチャーのデータセットによる評価結果は、より高解像度に重要度の勾配を描くことができます。 分布予測には土地利用や人間活動の情報も考慮されているため、より現実に即した生物多様性の分布に基づく評価が可能なのです。 このように、より解像度の高いデータを用いることが解決策になります。
フリーで使えるツールの結果ではいまいち物足りない
この課題は、事業のリスク評価をENCOREを用いて実施した場合に典型的なものです。 ENCOREは、事業と生態系サービスや、人為プレッシャーとの結びつきを定性的に評価することができるツールです。 事業が着目すべき自然の側面を理解するうえでは意義の深い一歩ですが、実際に事業活動を行っている拠点における自然(生物多様性や生態系サービス)の状態を考慮しなければ、この情報をアクションにつなげることは困難です。
シンク・ネイチャーが提供する生物多様性と生態系サービスの空間レイヤーを、ENCOREの出力結果と補完的に用いることで、事業拠点ごとの文脈付けを行うことが可能です。 このような空間明示情報は、より詳細なシナリオ分析を行う際にも重要になります。
精緻なロケーション評価の重要性
これまでに見た様々な課題は、シンク・ネイチャーが実際に取り組んだものです。 これらは、何にフォーカスして分析を深めたらよいのという、分析の開始地点を特定する難しさに関連しています。 言い換えると、LEAPフレームワークにおける、スコーピング及び、LOCATEフェーズにおける課題と言えます。
LOCATEフェーズにおいて優先すべき自然との接点をとらえ損ねると、その後の開示が十分な影響力を持ちえないことにつながります。 例えば熱帯で生産する農作物を利用する事業が、その生産のインパクトを過小評価して、 自然への影響の低い加工拠点にフォーカスをした影響分析に基づく開示を行ってしまうと、その開示自体の妥当性を疑われてしまうことにも繋がりかねません。
シンク・ネイチャーのTNFD対応支援サービス TN LEAD がロケーション評価に妥協をしない理由が、ここにあります。 10万種以上の生物種の分布データを用いた生物多様性重要度の優先付けを軸に、その他150以上のデータレイヤーを用いて、評価を行ってきました。
実際にシンク・ネイチャーによるロケーション評価サービスによる支援を希望する場合は、オンラインツール Global Biodiversity and Nature Assessment Tool (GBNAT) を購入されることをおすすめしています。 このツールは、シンク・ネイチャーのコンサルティングノウハウを結集し、精緻なロケーション評価を行うためのデータを提供するサービスです。 ご利用に関するお問い合わせは、以下のリンクから受け付けております。
本記事のまとめ
重要なポイント
- TNFD対応における現場の課題に対しては、スコーピング及びロケーション評価の精緻化が有効
- それを行うためには生物多様性に関する空間データの質が重要
- GBNATは精緻な空間データを用いたロケーション評価を提供している
事例
最後に、シンク・ネイチャーによるロケーション評価事例を、以下に掲載します。
このページの著者 | |
---|---|
五十里 翔吾 株式会社シンク・ネイチャー サービス事業部 サービス開発マネージャー |
|
投稿日 | 2024/11/28 |
最終更新 | 2024/11/28 |