データのバリューチェーン
ビジネスにおける生物多様性データ
グローバルな評価とローカルな評価
事業と生物多様性の接点を評価するには、目的に合致したデータを用いる必要があります。 ここで、個社が持ちうる自然関連データは、GHG排出量や排水量など、事業側のデータに限られることがほとんどです。 事業拠点周辺で生物多様性の評価を行っている先進的企業も存在しますが、その調査も拠点周辺に限られているのが現状です。
一方これまでに見たように、具体的なアクション戦略を立案するためにロケーションの優先付け評価を行う場合、 自社の活動のデータに基づく評価(ローカルな評価)だけでなく、拠点自体の生物多様性や生態系サービスの現状をグローバルな視点で評価するという視点が必要でした。
したがって、グローバルな生物多様性をデータに基づいて可視化したデータが、必要不可欠になります。
データバリューチェーン
生物多様性を広域スケールにわたって可視化するためには、膨大なデータが必要になり、これを一つの組織や研究グループが収集することは不可能です。 そこで近年注目を集めているのが、生物多様性データを蓄積するデジタルプラットフォームです。 例えば、GBIF (Global Biodiversity Informatoin Facility) や OBIS (Ocean Biodiversity Information System) などが代表的なものです。 シンク・ネイチャーも、これらのプラットフォームに登録されている膨大なデータを活用しています。
一方で、これらのプラットフォームにデータを登録するのは、現地調査を行うグループであり、広域スケールでの生物多様性の専門家ではないことがほとんどです。 データ蓄積プラットフォーム自体には、グローバルな生物多様性のパターンを可視化し、その信頼性を確保するための技術やノウハウが備わっているとはいえないのです。
実際には、生物多様性データが意思決定の質を向上させるという価値をもたらすためには、 専門家によるデータの加工、分析が不可欠になります (Figure 1)。
Figure 1: 生物多様性データのバリューチェーン
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i) 生データ
生データは、例えば生物標本リストや植生調査データ、鳥類のセンサスデータなど、研究者やそれに類似する人々により任意に提供されたデータである。これらのデータは,個々の研究者が論文に添付した調査資料や,研究機関が独自に作成し公開している調査データなどで提供されている。 こうしたデータ生物種の誤同定やデータ収集地点記録の間違いなど、さまざまなエラーを含んでいる。 例えば、野生生物の分布データとして動物園や植物園での観察記録が登録されてしまう 種の記録地点として博物館の標本庫の座標が登録される、といった事例もある。 -
ii) データの前処理 データの規格化・統合処理、統合されたデータを更に浄化、強化する処理を行うのがこの過程である。 上述の様々なエラーがこの過程で取り除かれる。その上で、データを集約した分析を行うことができるように、 空間解像度や座標系を統一される。
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iii) データ解析
計算処理や統計モデリングを用いて、 個々の種の分布や種数の地図や、保全上の優先地域をランク付けしたスコアなどを算出するのが、このプロセスに相当する。 分析の過程では、生物多様性データだけでなく、気候や土地利用のような環境、人間活動データを、生物多様性データと解像度をそろえ規格化を行い、解析可能な形式に整備することが必要である。 -
iv) サービス
データを通じてもたらされる情報が、生物多様性の専門家以外に対しても解釈可能で、価値を持つ情報となる段階がサービスである。 このようなサービスの例としては、任意の地点の生物多様性状況のレポート作成、 生物多様性を効率的に保全するための保護地域の拡張提案、 植栽樹種による生物多様性再生効果の測定などがある。 シンク・ネイチャーが提供するGBNAT及びTN LEADのほか、様々なソリューションも、このサービスに相当する。
まとめ
本ページでは、シンク・ネイチャーが行う生物多様性の可視化の前提となる、 ビジネスを取り巻く生物多様性データのバリューチェーンについて解説しました。 より詳細な内容は、以下の引用文献をご覧ください。
Reference
久保田 康裕, 楠本 聞太郎, 塩野 貴之, 五十里 翔吾, 深谷 肇一, 高科 直, 吉川 友也, 重藤 優太郎, 新保 仁, 竹内 彰一, 三枝 祐輔, 小森 理, 生物多様性ビッグデータに基づいたネイチャーの可視化:その現状と展望, 計量生物学, 2022-2023, 43 巻, 2 号, p. 145-188, 公開日 2023/06/28, Online ISSN 2185-6494, Print ISSN 0918-4430, https://doi.org/10.5691/jjb.43.145, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/43/2/43_145/_article/-char/ja
このページの著者 | |
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五十里 翔吾 株式会社シンク・ネイチャー サービス事業部 サービス開発マネージャー |
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投稿日 | 2024/11/28 |
最終更新 | 2024/11/28 |