生物多様性の完全度指標、生態系指標の作成方法
GBNATのロケーション評価指標
データレイヤー選定の根拠
企業にとっての自然関連のリスクと機会を検出するためには、自然変化の複数の要因に関して生態系と自然の現状を正確に捉える、単一の集約された指標ではなく、一連の指標を参照することが必要になります(IPBES/3/INF/4を参照)。例えば、森林伐採や淡水の状態といった生息地の損失状況は特に重要です。ビジネスのリスクと機会に対応するこのようなメトリクスの世界規模での空間分布図は、事業に関連する優先順位の高い場所を特定するための背景情報として不可欠であり、それによって企業の財務情報開示や意思決定の有効性を向上させることができます。
そこでGBNATは、生態系の状態に関する複数の指標を提供しています (Figure 1)。
森林減少は最近の森林面積の減少を、ヒューマンフットプリント増加は最近の自然に対する人間の圧力の増加を、洪水確率は現在の洪水リスクを、水不足は干ばつリスクを表しています。
これらの指標は、自然関連財務情報開示タスクフォース Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD)が推奨するコアメトリクスに準拠しています。
※温室効果ガスやその他の汚染物質の排出量など、この勧告で言及されているその他の指標は、近々GBNATに含まれる予定です。
Figure 1: GBNATで提供されるデータレイヤー
データ整備方法
それぞれのデータレイヤの整備方法を以下に記しました。データソースなどの概要は、Table 1に示しました。
※生物多様性の重要度 Biodiversity importance 指標の解説は、前ページで行っています。
生物多様性の完全性
生物多様性の完全性(陸域)
人間の土地改変の強度に沿った種の損失率(すなわちMSA値)は、ケンブリッジ・インスティテュート・フォー・サステナビリティ・リーダーシップ(2020)から採用した。MSA値は、自然林、二次林、耕作地、牧草地について、それぞれ3段階の土地改変強度(最小、軽度、強度)について示されている。この値をハビタットマップの空間データレイヤー(Jung et al. 入手した生息地データ層の解像度は300メートルであったため、平均値を用いて10分グリッドに集約した。
生物多様性の完全性(海域)
海洋生態系の完全性の度合いを定量化するための直接的な指標に関する確立された枠組みはまだない。我々の枠組みでは、既存のアプローチのうち、Halpernら(2019)が算出した海洋における人間開発と資源利用の強度を用いた。この指標は、気候変動、漁業、光害、有機物汚染、海運など、海洋生態系に対する人間の圧力に関する14の指標の集計値である。現在入手可能な最新のデータ(2013年)を、平均値を用いて10分グリッドに集約した。
生態系指標
森林伐採 Deforestation
森林分布データは世界森林被覆データセット(Potapov et al.2022)から入手した。このデータセットは、手作業で収集した学習データセットとランドサット画像を用いて、2000年から2020年までの1秒角における樹冠高(赤道では約30メートル)を予測したものである。樹冠高5メートルを森林と定義し、2000年から2020年の間の森林被覆の減少を10分角で計算した。森林減少が進行している地域は正の値で、森林被覆が拡大している地域はゼロの値で示した。値は、対象となる10分のグリッドセル内の全土地面積に対する森林被覆の減少の割合としてスケーリングした。
フットプリントの増加 Human footprint increase
ヒューマン・フットプリントの指標は、Venterら(2016)によって最初に開発されたもので、土地開発、農業、航行可能な水路による生態系への人間の圧力を集約したものである。GBNATでは、Muら(2022)によって2000年と2019年について1kmの解像度で計算されたデータ層が、ヒューマン・フットプリントの増加に関するデータ層を得るために使用された。各グリッドセルのヒューマン・フットプリント・スコアを 0~50 のスケールで示したソース・データ・レイヤーを、平均値を用いて 10 分グリッドで集計し、ヒューマン・フットプリントの増加をフットプリント・スコアの絶対値の変化として算出した。
水質 Water quality
水質の包括的な指標として、生物化学的酸素要求量(BOD)を使用した。グリッド化されたBODデータは、1992~2010年の世界銀行のデータセット(Damania et al. BOD値は0.5度(30分角)の分解能で表される。値は1992~2010年の平均値であり、バイリニア補間を用いて10分グリッドまでダウンスケールされている。さらに、地形、土地被覆、気候、土壌(SDMに使用される水関連環境変数を抽出)、汚染物質排出データ(Crippa et al. 2018)を含む環境変数とBOD値との関係をランダムフォレストアルゴリズムを用いてモデル化し、データ不足のグリッドセルに投影した。
洪水リスク Flood probability
グリッド化された洪水リスクレイヤ(CHRR and CIESIN 2005)は、当初は2.5分角のleveであったが、その後10分グリッドにダウンスケールされた。このデータセットでは、洪水頻度は10段階のリスク値で示されている。次に、ランダムフォレストアルゴリズムを用いて、2000年以前の土地被覆、気候変数、人間の足跡によるリスク値をモデル化した。そして、予測変数を用いて2020年時点の値を予測した。この予測値は、2000年の洪水リスク十分位値でスケーリングした2020年の洪水リスク値と解釈することができる。結果として得られた洪水リスクマップは、気候モデル予測から得られた結果(Hirabayashi et al.2021)と概ね同等であった。
渇水リスク Water shortage
AWARE指数は、冗長な水の絶対量を考慮した指標であり、水不足のリスクをよりよく表していることから、GBNATの渇水リスク指標として用いられている。 AWAREファクターは、生態系と人間の需要を満たした後に利用可能な余剰水の量を、世界平均との相対値で表したもので、値が大きいほど水不足の可能性が高いことを示す(1:世界平均、10:利用可能な水の残量が世界平均の10倍少ない)。一般的に使用される水ストレス(水の需要と供給の比率)は、絶対量が豊富な地域であっても、人口が多い場合には高くなる可能性がある。AWARE係数(Boulay et al. 2018)バージョン1.2cは、WULCAのウェブサイトから流域レベルで取得した。.水質データで行ったように、ダウンスケーリングとモデリング-プロジェクションを用いて10分グリッドでデータレイヤを作成した。
Table 1. データ作成年及びリファレンス
カテゴリ | 指標 | 領域 | ソース | 元データの解像度 | Year |
---|---|---|---|---|---|
生物多様性指標 | 生物多様性の重要度 Biodiversity importance | Terrestrial | Original (derived from GBIF, OBIS, and other publicly available datasets) | 10 arcminute | 2023 |
生物多様性指標 | 生物多様性の重要度 Biodiversity importance | Marine | Original (derived from GBIF, OBIS, and other publicly available datasets) | 10 arcminute | 2023 |
生物多様性指標 | 生物多様性の完全性 Biodiversity intactness | Terrestrial | Cambridge Institute for Sustainability Leadership (2020); Jung et al. (2020) | 300 meter | 2015 |
生物多様性指標 | 生物多様性の完全性 Biodiversity intactness (surrogated by marine human pressure) | Marine | Halpern et al. (2019) | 1 kilometer | 2013 |
生態系指標 | 森林伐採 Deforestation | Terrestrial | Potapov et al. (2022) | 1 arcsecond | 2020 |
生態系指標 | フットプリントの増加 Human footprint increase | Terrestrial | Mu et al. (2022) | 1 kilometer | 2019 |
生態系指標 | 水質 Water quality | Terrestrial | Damania et al. (2019) | 30 arcminute | 2010 |
生態系指標 | 洪水リスク Flood probability | Terrestrial | CHRR & CIESIN (2005) | 50 arcminute | 2020 |
生態系指標 | 渇水リスク Water shortage | Terrestrial | Boulay et al. (2018) | Basen level | 2020 |
このページの著者 | |
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五十里 翔吾 株式会社シンク・ネイチャー サービス事業部 サービス開発マネージャー |
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投稿日 | 2024/11/28 |
最終更新 | 2024/11/28 |